INTERVIEW

2016.12.19

Interview – スケートボーダー/フォトグラファー 小山 暁

湿板写真ってなんだろう?
現在開催中の展示「condense」の情報を見てそう思う方は多いのではないでしょうか?
QUIET NOISEスタッフが今回の展示作家であるスケートボーダー兼フォトグラファーの小山氏に、”湿板写真について”や”作品の魅力や見どころについて”インタビューを行いました。

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ー湿板写真とはどんな写真なのでしょうか?
小山 : 日本には幕末に伝来した、古典的な写真術です。ほら、歴史の教科書やテレビ番組などで登場する、坂本龍馬の肖像写真。あれらは、この技法で撮影されたものです。
僕の場合は、フィルムの代わりに透明なガラスを用いる「アンブロタイプ」という技法で撮影しています。具体的な手法は複雑なのですが…手短に説明すると、透明なガラスの表面を薬品で湿らせて感光膜を作り、湿った状態のうちにガラスを大型カメラに装着して撮影します。感光時間は天候や気温、薬品の配合によって異なるため、必ずテスト撮影をしてチェックします。撮影直後、ガラスが乾かないうちに暗室に戻って現像します。感光していない黒い部分が抜け落ちた状態になれば完成です。ガラス板に定着した像は、白背景に置けばネガ(暗転)になり、黒背景に置けばポジ(正転)になります。

ーそもそも、小山さんが写真を撮るようになったきっかけは何だったのでしょうか?
小山 : スケボーとグラフィティの存在が大きいです。なかでもスケボーは小学5年の頃から始めて、もう20年くらいになります。中学生の頃には雑誌でスケボー特集が組まれていることが多く、それに影響されて自宅にあるカメラでスケボーを撮影するようになりました。グラフィティに関しても、自分で描いたものを自ら撮影していました。
僕には、スケボーやグラフィティの精神が染み付いています。どちらにも共通するのは、自分との闘いです。練習しないとうまくならない。自分でやらないとはじまらないのです。
僕がアトリエの屋上を撮影場所に選ぶのも、「身近に、よく見ているものを撮る」ということにつながっています。スケボーでは、お気に入りの場所で技を練習したり、道具を作ることを繰り返してきました。そうしたなかで、「自分のいるところでも楽しいことがある」と思うようになりました。ひとつの場所から広がっていく。ここでおもしろいものはないかな?と探す。細かいところをちょっとずつ見ていくというのが、今の僕のスタイルです。

ー小山さんと湿板写真との出会いについて教えて下さい。
小山 : 仲良くしているあるカメラマンの方がきっかけです。彼は僕がスケボーを続けていることも知っているため、好みをよくわかってくれていて、度々おもしろい作家さんを紹介してくれます。あるとき、彼はイアン・ルーサー(Ian Ruther)という写真家を教えてくれました。イアンはトラックを暗室にして、湿板写真の技法を用いた作品を手がけています(注:イアンの場合はアルミ板を支持体にする「ティンタイプ」という手法を採用している)。
トラックをカメラにして撮影された、大判のアルミ板と同サイズの作品を目の当たりにし、「フィルムって作れるんだ!」と衝撃を受けました。「自分でフィルムを作れば、自分発信の表現ができる。これはおもしろいだろう!」とひらめいた僕は、すぐに本を取り寄せました。英語の得意な知人の力を借りて翻訳を進め、事細かに調べていきました。

湿板写真を手がけた初期の頃、撮影された像のうち黒い部分は透明になるという特性から、写真を重ねるというアイディアを思いつきました。当初は、例えば人物とロゴマークのような別個のイメージを重ね合わせていたのですが、次第に同じ場所で時間を変えて撮影したものや、左側と右側とを撮影したもののように、似通ったイメージを重ね合わせるようになりました。まったく違うものを重ねるよりも、同じ(ような)ものを重ねるというほうが、ひとつの場所で昨日・今日・明日…と積み重ねていく僕のライフスタイルや考え方にフィットしていました。
湿板写真は湿った状態でしか撮影できないという性質上、連続撮影ができません。つまり、まったく同じ状況下での撮影ができないのです。そのため、続けて撮影した写真と写真との間には、時間の流れが存在します。また、頭の中で像を重ね合わせるということもあるでしょう。こうしたものを「重ねる」ことで表現しています。

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ー江戸切子 小林昂平さんとの出会いや、協働(コラボレーション)について教えてください。
小山 : 共通の知人である尺八演奏家の方による紹介で知り合いました。もともと切子の幾何学模様に惹かれていることもあり、「ひとつ(の作品)にできたらいいな、どういう形で実現するかな?」と漠然と考えていました。実際に話してみると、「伝統はもちろん大事だが、それだけじゃない。別の形でできることはないだろうか?」と模索する彼とは通じるところが多くありました。
意気投合した僕らは、試しにガラス作品の額縁をガラスで制作することから始めました。サンプルの試作を繰り返すうちに、重ね合わせることであらわれるおもしろさを発見し、いつも撮影するサイズでガラスを削るようになりました。そこから、全面を削ったり、削ってない部分を残したり、あるいはもっと細かく削ったりと、2〜3年の月日をかけて試行錯誤を続けました。
制作についてはフリースタイルを重視し、50:50の関係で進行します。完成したイメージを共有するけれど、どんな風に仕上げてほしいと注文はしません。薬品によってムラが生じる湿板写真と、手作業で作り上げていく切子の幾何学模様は、いずれも偶然性によって導かれるものです。

ー今回の展示の見どころを教えてください。
小山 : 今回の展覧会タイトルの「condense」には、ひとつに圧縮するという意味を込めています。出展作品は、何枚もの写真と切子が重なっています。
情報や写真が溢れる現代社会では、何が本当のことなのかわからない。
自分自身でフィルターをかけてしまっていることもあるように感じています。
今回の作品は表からも裏からも見ることができるものです。その無限の広がりは、江戸切子の幾何学模様にも通じるものがあります。
また、切子が反射することにより、写真の像が見えないことがあります。この現象も、見ようと思っても見えていないことがあるという現実を暗喩しています。
切子という伝統工芸と、湿板写真という古典技法。江戸時代から続く古い技法を使って、新しいものを作るという目論みのもと、僕らはひとつになりました。今を生きる僕らが経験を重ねることでたどり着いた組み合わせです。
会場では初めて作品を観てくださる方も多いです。「これが写真なの?」と驚き、きれいだと感想を伝えてくれます。この時代に伝わった伝統的な技術が、現代を生きる人々に感動を与えられたら光栄です。

ー今後やってみたいことや展望はありますか?
小山 : 今後は、これまで撮影した最大サイズ(1m×1m)の作品を制作したいと考えています。小林昂平さんと一緒に、様々な方向性を探りたいです。

ー小山さん、ありがとうございました!!

■展示の詳細はこちらからどうぞ■
http://www.quietnoise.jp/event/exhibition-condence.html

【 インタビュー・テキスト : 錦 多希子 (にしき たきこ) 】
1984年東京生まれ。2012年より東京・恵比寿にあるアートブックショップ+ギャラリーPOSTに勤務。店頭対応のほかに、ウェブサイト上で新着本の紹介を更新する。その傍らに、CLUÉL hommeやPen onlineでの連載、nostos booksのwebコラムなどの執筆を手がける。
QUIET NOISEではスタッフとして月に1回、店頭に立っている。
http://www.post-books.info

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